静悟の文学的空間

小説、読書感想、宮座賢治などについてのブログ

僕らの旅路

僕らの旅路16 新たなる旅路

半年が経った。この間、僕と綾と愛衣先生の日常は大抵変わりなかった。僕はブログで詩を書いたり、図書館や公園で本を読んだり、綾と愛衣先生は勉強を教わったり、公園でバトミントンをしたりしていた。次第に綾の心は回復の兆しを見せていったように思う。…

僕らの旅路15 絵本を読んで

せっかく出会えた良き先生と直ぐに別れさせるような事はしたくなかったので、いずれ旅立にせよ、しばらくはこの地に逗まる事に決めた。近頃、以前にも増すペースで愛衣先生はは綾の下へ授業にやってきてくれている。今日も夕方から愛衣先生は僕らのマンショ…

僕らの旅路14 綾と空のこの土地での毎日

悪夢 ハッと目を覚ますと夜中だった。昔の夢を見てしまった。あの忌まわしき実家にいた頃の夢。私を殴る母親とそれを眺めている義理の父親。こんな夢を見たのは久しぶりだ。怖くなって、辺りを伺うと、いつも通り変わらないマンションの自分の部屋だった。 …

僕らの旅路13 僕らの関係

初授業 「じゃ、ここ訳してみて?」 「知識があった方がありとあらゆる場面で役に立つ。だから学生は寸暇を惜しんで勉強すべきなのだ」 「うん。正解」 今日も愛衣先生に英語を教えてもらっていた。 「ちょっと休憩しようか」 「うん」 私はリビングへ行って…

僕らの旅路12 如月愛衣の辿った道

図書館での日々 学校に行かなくなり、図書館で過ごすようになってから大体3年程が過ぎた。気がつくと私も中学生に上がるくらいの年になっていた。年齢で言うと14歳くらい。 その頃に一人の先生と出会った。今の私があるのは間違いなく先生のおかげで、人…

僕らの旅路11 如月愛衣という女性

如月先生の初授業 窓から差し込んでくる日光と共に目が覚めた。リビングへ行くとまだ綾は起きてなかった。歯を磨き、顔を洗って、リビングのカーテンを開けると暖かい陽の光が入ってきた。今日はいい天気だから公園に行きたいな。 綾が目覚めるまでソファに…

僕らの旅路10 家庭教師との出会い

詩を書くようになって一週間が過ぎた。この間、僕は綾に褒められてその気になり、時々ブログに詩を上げ続けていた。綾が遊んでいる様子をUPした記事なんかに比べたら全然大した反響はなかったけど、それでも少ないながら見てくれる人はいた。僕はそれで満足…

僕らの旅路9 落ち着いた日々

この地に腰を落ち着けてはや一ヶ月。この間僕らは平日の昼間を狙って水族館や植物園で過ごしたり、図書館で本を読んだりしていた。僕らは二人ともこの生活スタイルが気に入って、しばらくそんな風に日々を過ごしていた。 (いっその事しばらくこのままでもい…

僕らの旅路8 綾の幸せとは

そして僕らは旅に出た。新しいまだ見ぬ自分たちに出会う旅へと。 最初は旅館に泊まった。一泊して翌日にまた出発するということを繰り返して気がつけば結構北の方まで来ていた。地元に比べると平均気温に結構差がある。これ以上進むとこれからの季節寒いかも…

僕らの旅路7 旅

暑い日が続いた。だけどそんな夏も日一日と過ぎて行き気がつくと9月が迫ってこようとしていた。そう。夏が終わる。綾も夏休みが終わって新学期が始まる。結局まだ綾と僕は一緒に過ごしているが、9月が来たら綾はどうするのだろうか? 「ねぇ、綾学校が始まっ…

僕らの旅路6 

僕のところへ綾がやってきてから2週間程経った。その間一緒に公園で遊んだり図書館で本を読んだり家で共に料理を作ったりもした。結構充実した日々だったけれど、一つ問題があった。それは金銭的な問題。綾の分の生活費を僕自身の稼ぎで賄うことが難しくな…

僕らの旅路5 綾の涙

帰りの電車の中で綾は疲れて眠ってしまった。隣の僕にもたれながら。その腕にはイルカのぬいぐるみがしっかりと抱かれている。水族館を見終わった後お土産屋さんで買ったのだ。本当に12歳の子供らしくて微笑ましい。 結局駅に着いても綾は眠そうだったのでお…

僕らの旅路4 水族館へ

当日の朝 「シャッ」とカーテンの開く音がした。2日目なのでさすがに誰が開けたのかはすぐに気がつく。案外綾は早起きらしい。僕はまだ眠いのでしばらく布団の中で微睡んでいた。しかし、昨日の約束を楽しみにしている綾は僕を起き上がらせるべく布団を引き…

僕らの旅路3 二人暮らし

「いただきます」 そして、僕等は昼食を摂っていた。今日のお昼ごはんは冷やしうどん。リュック一杯に荷物を詰めて帰ってきた綾を迎えてササッと作った。僕としてはいつも通り何の感慨もなく食べていたけど、綾はとても美味しそうに食べてくれていた。 「そ…

僕らの旅路2 朝

二人の朝 カーテンが開けられる音が聞こえた気がした。早朝は肌寒さを感じさせ、蒲団に包まる至福から抜け出せずにいた。だけど一人暮らしの部屋でゴソゴソと自分以外の足音が聞こえるのを不審に思って少し寝足りない体を無理に起こして部屋の様子を見回して…

僕らの旅路1話 出会い

家出少女との出会い その時はさっぱり分からなかった。彼女の言った言葉の意味が。彼女はこう言ったのだ。「私と共に世界を見よう」と。 その夜は満月だった。日本文学全集から三島由紀夫の巻を本棚から取り出して2時間ほど読みふけっていた。窓の外では周…