静悟の文学的空間

小説、読書感想、宮座賢治などについてのブログ

僕らの旅路7 旅

暑い日が続いた。だけどそんな夏も日一日と過ぎて行き気がつくと9月が迫ってこようとしていた。そう。夏が終わる。綾も夏休みが終わって新学期が始まる。結局まだ綾と僕は一緒に過ごしているが、9月が来たら綾はどうするのだろうか?

「ねぇ、綾学校が始まったらどうする?」

「別に家に戻るよ」

「綾はそれでいいの?」

「多分親が帰ってくると思うから」

「そうなんだ」

聞く所によると今回一ヶ月程で帰るということを匂わせていたらしい。

「僕は今のままいてくれてもいいんだよ?」

綾との二人暮らしは楽しくて毎日がワクワクするような日々だったから。

「でも親帰ってきたらそういう訳にもいかないと思う。私なら大丈夫だから」

「そっか」

そして新学期になり綾の両親は本当に帰ってきたらしい。綾から聞いた話によると一ヶ月も放置しておいて子供を心配することもなく、何事もなかったかのように日々が再開したようだ。虐待すれすれのネグレクトながら綾は児童相談所に相談したりはしたくないみたいだった。

綾が実家に戻ってから3日後にいつもの公園で初めて会った夜のように二人ベンチで近況報告をしあった。

「ねぇ、綾。僕やっぱり今のままはまずいと思うよ。両親に黙って僕のところに来なよ」

「でも、それじゃ誘拐になっちゃうんじゃない?」

「あの親達は通報もしないと思うから大丈夫じゃないかな」

「私は慣れているから」

どうにも綾は強情だ。自分さえ我慢すればいいと思っている。でも僕はこれ以上放っておく事ができなかった。あの時寂しがって泣いていた本当は凄く繊細で傷つきやすいこの子をこんな状況のままにしておきたくなかった。

「じゃあさ、二人でどこか行かないか?」

「どこか?」

「旅をするんだよ。世界中を点々と。そしたら僕らの居所は誰にもわからない。誰にも邪魔されずに二人で色んな所へ行って色んな体験をしよう。楽しいよ、きっと」

「・・・・」

綾はしばらくその事について考え込むように沈黙した。急な思いつきだったけど、本気だった。前から旅はしてみたかったし、ブログに旅での体験を載せてそれで生計をたてられる。綾と二人なら寂しくもない。

「本当に私ここにいなくてもいいのかな・・・」

「いいよ。綾は自由に生きていい。大人とか子供とかそんなことには関係なく」

「じゃあ、私行ってみたい。色んなところに。空と一緒に」

「じゃ、決まりだね」

次の日綾はリュックに荷物を詰めて僕のアパートへやってきた。そして最初どこに行くか話し合った。とりあえず北の方へ向かおうと決めた。今ならまだそこまで寒くはないだろう。僕はこの日のために車も用意してきた。準備は万端だ。

「じゃ、出発だね」

車に乗り込むとワクワクした。どんな素敵な事が待っているんだろう。

「バイバイ。パパとママ」

綾は小声で両親にサヨナラを言っていた。僕は聞こえなかったことにした。

アクセルを踏んで車は走りだした。まだ見ぬ景色を見にゆこう。