「いただきます」
そして、僕等は昼食を摂っていた。今日のお昼ごはんは冷やしうどん。リュック一杯に荷物を詰めて帰ってきた綾を迎えてササッと作った。僕としてはいつも通り何の感慨もなく食べていたけど、綾はとても美味しそうに食べてくれていた。
「それで、着替えとかは何とかなりそう?」
「うん」
綾は意識の大半をうどんに持っていかれている。話し合いは食後にしよう。
「ごちそうさま」
僕は洗い物を済ませて食後のお茶をすすっている綾と向かい合った。
「あのさ、今って学校は夏休みだよね?」
「ん?そうだよ?」
「じゃあ、登校の心配とかはしなくて良い訳だね」
昼の強い日差しが窓から差し込んでくる。今日も暑くなりそうだ。
「ちょっと夏休みの間知り合いの家に泊まりに来たとでも思ってくれていたらいいよ。そうだ。宿題は持ってきた?」
「うん」
「じゃ午後からは一緒に勉強でもしようか。分からない所あったら教えてあげるよ」
「大丈夫。自分で解けるから」
それから僕達は卓袱台で一緒に勉強をすることになった。綾はプリントの束を黙々と片付け、僕はドイツ語の参考書を開いていた。宣言通り、綾は特に苦もなく問題を解いていた。何となくそうなんじゃないかと思っていたけど、やはり綾は賢い子だった。僕としては勉強を教えてあげたかったので、少し残念だったけど。
「今日の分終わった」
「お疲れ様」
綾は2,3時間程で結構な量をこなしていた。僕はもう少し勉強していたかったが、綾の疲れた様子に合わせて僕も一区切りつけることにした。
「ジュースでも飲もうか」
「ありがとう」
二人でオレンジジュースを飲みながらぼんやりとする。窓から入ってくる爽やかな風が風鈴を鳴らした。
「エアコンつけようか?」
人工の風があまり好きではないので普段あまりつけないのだが、綾の暑そうな様子が少し心配になってそう聞いてみた。
「いい。それより外に行きたい」
「うん。そうだね」
何だかんだで朝から家にいるので夏休みの過ごし方としては不健全かもしれない。
「どこか行きたい所ある?」
綾はしばし悩んでいた。やがてポツリと口にした。
「水族館」
聞いてみると、綾はこの夏休みまともに行きたい所に行けてないらしい。彼女の境遇を考えれば無理もない。だから僕としては出来るだけ希望に沿うようにしてあげたかった。だけどさすがに昼から水族館というのもなんなので、翌日に朝から出かけようということにした。そしてその日はいつもの公園まで散歩に行ってそこでブランコを漕いだり、バトミントンをしたりして過ごした。そうしていると、何だか年の近い娘の父親にでもなった気分だった。それにしてもこんなに可愛い娘をどうして両親は放っておくのか。父親が無くなって再婚した辺りに原因があるのだろうか。色んな家族があるものだ。