静悟の文学的空間

小説、読書感想、宮座賢治などについてのブログ

とある読書家の話

人間よりも本が好きだ。その事に僕が気がついたのは23の時だった。思い返してみれば、今までどんな人間にも共感を感じたことがなかった。それは僕が特別なんだろうと思っていた。だけど、もしかしたら僕は人の姿をした人でない何かなのかもしれない。とにかく、人に何かを期待するのはやめた。会うのもやめた。僕は完全に一人きりで世界を楽しむことにした。

それから僕は対人のストレスでうつ病となり、毎日死ぬことばかり考えて生きていたのが、嘘のように毎日外を自由自在に行き来し、読書に芸術にたまに山に登ったりもして、自由に楽しく生きられるようになった。思えば、これは一つの試練のようなものだったのではないかと思う。僕という存在が人に見切りをつけて、たった一人で生きる覚悟を決めるための。それは時間のかかることだったのだと思う。苦しい時は誰かにすがりたくなってしまうものだ。でも、そこを通り越して、どんな時でも誰にも何も期待しない。いつしか僕はそんな生き方を誇りに思うようになっていた。

 

最近は朝の5時位に起きて、山に登りに行く。バスに揺られること30分くらいで着く。朝の山頂の景色を充分に堪能してから、ゆっくりと山の雰囲気を味わいながら、下山して、疲れた体で眠りそうになりながらバスに揺られ、家に帰る。

 

帰ってから軽く何時間か読書してから、図書館に行く支度をする。今の所僕にとって一番重要なのが図書館に通うことだった。本が僕の心支えだったから、家に常に読む本がないといけないくらいだ。そして、自転車に乗って、府立図書館まで通う。最近のジム通いのせいか、体力が増して、片道30分の走行が大して負担にならなくなっているのはいい傾向だった。いつも開館と同時に入れるくらいに時間を調節して訪れるので、今日もまだ大して人が入っていない状態で席も楽に取れた。単行本を5冊程選んで、席について集中して読んでゆく。飽きたり、面白くなかったりすると、別のものに取り替えに行く。この図書館もそう蔵書がある訳でもないが、少なくとも京都では一番マシな部類だ。今の所まだ読む本はあって、それはありがたいことだ。それから、5時間程、時々目を休めたりしながら、読書に没頭していった。文章を追うことで、心が浄化されてゆくのを感じる。良書にはそういう力があると僕は信じている。今日は主に文学作品を中心に読んでいた。漱石とか川端とか。どちらも別にタイプという訳ではないのだが、一応名作だからということで。三四郎を読み終えて、一段落したことだし、次は宗教関連の本を読もうかなと思っていると、途端にお腹が空いてきた。朝食にバナナとヨーグルトだけだったから、お腹の減るペースも早くなってしまったのかもしれない。席をそのままにして一旦外に出た。ベンチに座り、さてどうしたものかと思う。本音としてはまだ閉館まで4時間程あるし、このまま読書に励んでいたいのだが、肉体の方が空腹を訴えて言うことを聞きそうにない。仕方ない。何か食料を買ってきて、このベンチで食べさせてもらうとしよう。確か近くにスターバックスがあったはずだ。

名前のよく分からない、安めのパンのようなものを注文してさっきのベンチに戻った。

鳩が群がっていた。さっきはいなかったのに、まるで僕が帰ってくるのを待っていたように。追い払いながらベンチに座って、袋を開けて、早速食事を開始した。うん、美味い。最近富みに鋭敏になっている僕の舌でも、このパン生地は美味しいと思えた。運がよかった。最近ハズレの食事ばかりだったから。それにしても、鳩が食べこぼしを狙って足元に群がってくる。僕は欠片を向こうに放って、鳩を引き離そうとするが、数匹向こうへ行っただけで、後はエサをねだってくる。鳩か。子供頃一緒によく遊んだっけ。

懐かしい気分になったので、半分程パンをちぎって、粉々にして、一気に振り撒いてやった。鳩は一斉にパンをついばみ始める。僕も残り半分を食べる。いいな、この場所。程よく自然もあって、図書館もある。読書に疲れたら、こうしてリラックスすればいいんだ。雨が振らなければ毎日でも来たい。

 

予定通り、休憩した後は席に戻って、残りの2冊を読んでいった。活字を追うごとに、脳に心地のよい快感が与えられるような、どんどん意識が研ぎ澄まされてゆくような作用を感じる。僕が読書を生きがいとしているのは、勿論知識を獲得するということもあるけれど、こうした、精神安定作用を信頼しているという面も大いにあるのだった。

 

7時になり図書館は閉まる。家で夜読む本も必要だから、借りるものを選びにゆく。今日で文学と仏教系のものは大体読んだから、借りるのは美術系のものにしよう。ダビンチとラファエロの本を何冊か借りて、図書館を出た。さて帰るとしよう。

 

帰りのバスの中で夕飯どうしようかなと思う。確か冷蔵庫には何も残っていなかったはずだ。

結局最寄りのスーパに寄って、管理栄養士監修のお弁当をいつもの如く買って、それを晩ごはんに食べた。そして、飽きずに家でも借りてきた本を読む。2時間も読んでいるとさすがに体が疲れてきて、眠気がやってくる。風呂に入って、ソファでごろごろしていた。僕は不眠症の気があるので、眠くなっても結局眠れない事が多い。疲労で本を読む気にもなれず、さりとて、布団に入る気にもなれない。だから、そのままゴロゴロと寝転がっていた。しかしそうすると、色んな事が頭を巡ってくる。思考がとまらなくなる。

誰にも期待せず、僕は一生たった一人で生きていくんだろうか?人間以外のものって何があるんだろうなあ。神様とか天使とか妖精とか見えたらいいけど、僕には見えないし。苦しい時に何を支えにして、何で回復したらいいんだろうなあ?まあ、いいか。読書で順調に回復していっている。僕はきっとだいじょうぶなんだ。何も、心配することは、ない・・・・。そこでこの日は眠ってしまった。