静悟の文学的空間

小説、読書感想、宮座賢治などについてのブログ

インディゴチャイルド10 お姉さんの声

下山して部屋に戻って考えていた。あの時山頂で聞こえた声は間違いなくお姉さんの声だった。もう何年も会ってなくても聞き間違えることはない。今どうしているだろう?猛烈に今お姉さんがどうしているか気になった。

あれから何年もそれこそ僕が大きくなるまでお姉さんは一緒にいてくれた。僕が学校に行かなくなってもお姉さんは何も言わなかった。だけどお姉さんは突然いなくなってしまったんだ。部屋に置き手紙だけ遺して。

突然いなくなったことにショックで動揺もしたけど、どこか腑に落ちることもあった。何となくこのままずっとこの暮らしが続きはしないだろうと思っていた。お姉さんは幾ばくかのお金を遺してくれていた。僕はそのお金を大切に財布に入れて、お姉さんと一緒に住んでいたマンションを解約して、旅に出ることにしたのだった。本当の自分、今まで環境に押さえ込まれ、押し固められてきた自己の魂を取り戻す旅に。それはお姉さんと暮らす事で大分癒えたものだったけど、旅に出る事で更に完全に取戻そうと思ったのだった。

そしてやってきたこの土地。不思議な女性と出会ったり、白井さんに家を借りて花壇のあるお家に住んだり、色々あった。僕は順調に自分を取り戻せていると言える。過去との決着もこのように過去を思い出した事で着いたようなものだ。だけどあの時の声は何だったんだ?ただの幻聴、幻だったんだろうか?お姉さんは自分で魔法使いというくらい不思議な女性だったから、何らかの方法で僕にメッセージを送ってきたのではないだろうか?

だけどそんな事は大した問題ではなかった。お姉さんにもう一度会いたい。僕はその想いに取り憑かれたようになっていた。

その晩眠りながら考えていた。何となく良い所かなと思ってやってきた高知の土地だったが、お姉さんもこの近くにいるのかな?とりあえずあの山にもう一度登ってみよう。またコンタクトが取れるかもしれない。

この間と同じ用にリュックに荷物を詰めて山へとやって来ていた。ドキドキする。頂上に着いてお姉さんの声が聴こえるかなと。こうして思い返してみると、実に色んな事があったものだ。地元の森に二人でキャンプに行った思い出、釣りに行った思い出、お互いの誕生日を祝いあった思い出。楽しいことが一杯あった。でも僕にとってはお姉さんと過ごす毎日が祝い事みたいに楽しい時間だった。ただあのマンションでお姉さんと一緒にいれるだけで僕は幸せだったんだ。

息が切れてきた頃山頂に着いた。僕は深呼吸して息を整える。ドキドキした。また聴こえるかな?僕は呼吸を深めて意識を研ぎ澄ますように聴覚に集中した。

「ウフフ」

聴こえた気がした。それとも僕の錯覚だろうか?

「違うよ、和人」

本当に聴こえた。お姉さんだ。

「大きくなったね。ちょっと私とお話しよ?」

「うん」

感動で胸が震えた。もう一度会えたんだね。

「和人。ごめんね。あの時急にいなくなっちゃって」

「いいんだよ。お姉さんにも色々あったんでしょう?」

「うん。まあね。でもせめてお別れくらいは言ってから離れたかった。私ずっと後悔してたの」

「確かにいきなりでびっくりしたけど・・・」

「実はね。私達現代に暮らす魔法使いには色々あって、師匠から呼び寄せられて急に行かなくちゃいけなくなったの。本当にごめんなさい」

「もういいよ。それでお姉さんは今どこにいるの?」

「私は今高知にいるよ。霊体の状態で空から俯瞰していたら、偶然山にいる和人を発見してね。本当にびっくりしたよ。」

「そうなんだ」

「私少し前に師匠の下での修行に一区切りついたから今は身軽だよ。ねぇ和人昔みたいに二人で過ごそうよ。いま旅館に泊まっているんでしょう?私が住んでいるマンションに来なよ」

「分かった」

離れて交信出来る事は最早不思議に思わなかった。だってお姉さんは魔法使いだから。僕はお姉さんから住所を聞いて早速明日にでも向かうつもりだった。最後に会ってからもう一年くらい経つのかな。再会するのが楽しみだ。