静悟の文学的空間

小説、読書感想、宮座賢治などについてのブログ

ライトメモリー

 

失われた記憶

どこだろう、僕の居場所は。なぜ僕はここに存在しているのだろうか?思い出せないくらい遠い記憶が僕の中には確かにある。

縄文人古代人であった時のはるか昔の過去世の記憶が僕の中には眠っているのだろう。自然の中で硬い土の上で眠っていた時の記憶が僕の体には確かに存在しているはずで、だから僕はこのように路上で眠ることも出来るはずだと自分に言い聞かせつつ寒空の下でなんとか睡眠をとっていた。11月の冬は結構冷える。だけどそれでも拾った新聞紙を体にかけて後はただ自前の上着、それでなんとか寒さを凌いでいた、早く翌朝になったらいいなと思いながら。

いつの間にか眠っていらしい。小鳥達の鳴き声で目が覚めた。ようやく待ちに待った朝がやってきた。とりあえずまだまだ寒さが体に残っている。11月の寒空の下、僕はストレッチとジョギングで体を温めるのだった。何とか昨夜はやりすごした冬の路上だったけど今晩はどこかに宿を取りたいから早目に情報を集めに出かけようと思ったのだった。僕のような一文無しでも泊まれるようなところを探そうと。だけどそれよりも大切なのは僕の記憶、失われた記憶を取り戻すことだ。本当に何故自分のことが何も思い出せないのだろうか。僕は今20歳で生活に必要な情報くらいは覚えているのだけど、僕自身がどういう人間で、どんな子供時代を過ごしたのかさっぱり忘れてしまっている。これは忘れてしまったままでいたほうがいいということなのかな?とも思う。記憶のことが気になる、取り戻したい。だけどそれと同時に記憶が戻った時に自分がどうなってしまうのか不安な気持ちも同じくらいあるのだった。そのようなことを考えながらトボトボと今夜の宿を探し歩いていた。まずどこかの求人に応募するというのは難しそうだと早い段階で気づいた。僕は自身の経歴も何もわかっていないのだから。求人雑誌を片手に公園のベンチに座ってどうしようかなと悩みながら鳩の群れをぼんやりと眺めていると一人の老婆に話しかけられた。不思議な人だった。杖をついているのだけど眼光はしっかり灯っていて鋭い目をしていた。

「仕事を探しているのかい?」

「ええ、まあ」

老婆の鋭い眼光に内心ドキドキしつつ僕は自身の内情をぽつりぽつりと話し始めた。どこか遠い世界にでも行きたいという心境、記憶を失っていることまであまり人に話すことではないと思いながらも、老婆の不思議な能力で僕の心の扉をこじあけられたかのようだった。一通り事情を説明し終えるとこの不思議な婆さんは「そうかい、それは大変だったねえ」と僕を慰めてくれて、思わず涙ぐんでしまいそうだった。僕のそんな様子を心配気な繊細な目で僕を見つめてくれた。差し出してもらったテッシュで僕がひとしきり涙を拭い終えると、彼女は一切れのメールアドレスが書かれた紙を僕に渡すのだった。そして黒いスマートフォンを同時に渡した。ゆっくりとベンチから杖で体を支えながら立ち上がりながらこう言った。

「そこへ行ってみるといい」とだけ言い残して。最後まで僕を見るお婆さんの心配そうな目が印象に残っていた。

しばらくお婆さんとの会話の余韻に浸りつつ、泣いたことで気持ちもリセットされた所でスマートフォンをしげしげと眺めた。何故あのお婆さんは僕にこのようなものまで渡してくれたのだろうか。取りあえず書かれたメールアドレスに不慣れなスマホ操作に手間取りつつも、何とかメールを送信してみた。なんて送ったらいいのかもわからなかったけど、とりあえず「今晩の宿を探しています」とだけ正直に打ってみた。その後30分くらいだろうか、鳩にポップコーンを与える少女の様子をぼんやりと眺めたり、足元に餌を求めて寄ってくる鳩の体を撫でたりしながら過ごしているとピロンとスマホがメールの返信を告げた。「どうぞ、いつでもおいでくださいね」とメールにはただこう書かれていただけで後はグーグルマップに場所が表示されているだけだったけど、不思議な程僕は安堵感に包まれていた。ここに行けばなんとかなるのだろうと直感で理解できたのだった。

親切なお姉さん

地図を片手になんとかたどり着いた場所はマンションの一室だった。緑のある中庭となかなかに高そうな小綺麗な建物に想像と違っていた分少しの間呆気に取られてしまった。503という部屋番号を押すと若い女性の声が返ってきた。「どうぞ、お入りくださいねー」と気軽な風な口調で。やけにゆっくりと感じるエレベータの中で想像が色々と巡っていった。この部屋にはどんな女性が住んでいるのだろう?彼女は僕を助けてくれるのだろうか、この寝泊まりする場所がないという苦境から救ってくれるのだろうかと。

部屋のドアの前でインターホンを鳴らすとガチャリと扉が開き20代くらいの若い女性が現れた。

「あ、こんにちわ」にこやかな笑顔だった。顔をくしゃっとしたような破顔という表現が似つかわしいようなそんな表情。非常に美しい女性だった。僕よりは年を取っていそうだけど、まだまだ若いこの女の人に包容力を感じさせて、この人に抱きしめられたいと思った。

案内された室内は小綺麗な空間だった。至る所に観葉植物たちが置かれていて、アロマの匂いが漂うお洒落で掃除が行き届いているのが見受けられ、彼女の趣味の良さが伺えた。こんな場所に汚れた自分がいてもいいのかと恐縮してしまった。

「寒そうだね?大丈夫?」

この時僕は初めて自分が寒さに参っている事に気がづいた。彼女の優しさに涙が出そうになった。差し出してもらったハーブティーをすすり、僕は不思議な程自然に自分の現在の状況を素直に吐露していたのだった。記憶を失っていること、今晩寝泊まりするところさえないこと、お金を全然持っていないことなど。

「ふむふむ。」

彼女はとても熱心に聞いてくれた。お姉さんの名前は御幸というらしかった。こんなどこの誰とも分からない男の事情を何故こんなにこの人は真剣に聞いてくれるのだろう?

「それじゃ、しばらく家にいるといいよ、大丈夫部屋は余っているから」

本当にそう言ってもらえるとは思わなかったけどなんてありがたいのだろうと思った。僕はあのお婆さんとの関係を聞いてみたかったのだけど、なんとなく遠慮して聞きそびれてしまった。それからは彼女の勧めに従って風呂に入らしてもらった。一晩で汚れた体を清潔にする必要がある。

十分に丹念に体の汚れを取り除くと自分でも鏡を見て見違える程綺麗になったと思った。

「あら、すごく男前じゃない」

御幸さんの称賛がこそばゆくてしかめ面をしてしまった。

「それじゃ、とりえず今日はゆっくり休みなさい。疲れてるはずだから」

言われてみて初めて気がついたのだが僕は確かに相当疲れていた。昨日も十分に休息が取れたとは言い難い。用意してもらった部屋でその日はぐうぐうと寝入ってしまった。

改めて翌朝僕が今後どうするつもりなのか御幸さんと話し合った。御幸さん自身は謎めいた女性だったけれど多少は彼女の事も聞かせてもらえた。彼女はフリーランスの作家のようなことをしていて、その収入で生活しているらしい。彼女は自分の仕事を手伝ってみないかと申し出てくれた。どのようなことをしたらいいのかと聞いてみると、何も難しいことはない、ただ書類を纏めたり、出版社とのやり取りを仲介したりするくらいらしい。ぼくは二つ返事で引き受けたのだった。それからは穏やかに時間が過ぎていった。女性との二人暮らしだったけどそれ程問題は起きなかった。彼女はお風呂場やトイレなど気をつけないといけない場所は前持って教えておいてくれたし、ぼくもそれをできるだけ守っていたからだ。ただ楽しく彼女の仕事を手伝い、暇な時間は内省の時間に当てた。彼女はぼくに瞑想の楽しみを教えてくれたのだった。最初はチャクラによる瞑想を教えてもらったのだが、ぼくには難しくてすぐには出来なさそうで、単に何もせず座っているという方法をまずは選んでみた。僕は本当にいつも思うのだけど、なぜここにいるんだろう?僕は何者だ?その答えはまだ見つかっていない。だけど瞑想の時間を取っているとなんだか思考が研ぎ澄まされるのを感じることは出来るだった。僕にとってはそれはとても大切なことだった。彼女のライターの仕事を手伝う、内省の時間、そして共に食事をする、彼女は非常に料理が上手で僕はいつもとても食事に満足感を得ることが出来ていた。僕は多分御幸さんを母のように姉のように思っていたのだと思う。そして御幸さんも僕を弟のように思ってくれているのではないだろうか、そんな風に感じる瞬間が何度もあった。彼女との生活はとても快適で時々ワクワクするようなことがある。そんな感じで日々穏やかに過ぎてゆくのだった。

御幸さんのヒーリングについて

ところで御幸さんはヒーリングのような事も副業のような形で行っていた。僕もここを訪れた当初に多少施してもらったけど体が温められて心地よかった。僕にはよくわからないが、相談者が来ているところからして馬鹿にならない腕前なのだろうと思う。彼女に手を当ててもらって帰ってゆく患者さん達は皆うれしそうだった。時々助手として僕も携わらせてもらうことはあったけど、今の所僕にはヒーリングの能力など皆無だ。だけどその不思議な力についてはとても興味があったので、ある日タイミングを見計らって勇気を出して頼んでみた。

「あの僕にヒーリングを教えてもらえないかな?」

そう言葉を発した僕を御幸さんは不思議そうな顔でコテリと首をかしげた。

「なんだ、興味があったの?それなら早く言えばいいのに」

そしてその日から夕飯の後御幸さんによる個人レッスンが始まった。拍子抜けするほど呆気なく僕は御幸さんによる指導を受けることが出来たのだった。と言ってもそれ程難しいことを行っていった訳ではない。最初はただ彼女が流してくれるオーラを感じるところからだった。それは普段助手として傍らで感じていたせいか特に問題なくスムーズに暖かく心地良い気の流れが体内を巡ってゆくのを感じることが出来たのだった。最初の頃はぼんやりとして眠くなってしまうことも多かったが、そんな時でも御幸さんは優しく眠ってしまってもいいのよと言ってくれた。まるで母親に抱かれている赤子のような気分になれる、それがすごく幸せな感覚でいつまでもこのままでいたいような気持ちになってしまうのだった。そんな幸せな毎日だったけど、ふと何故かこのままここで御幸さんの世話になっていてもいいのかという疑念が心の中に生じるようになった。別にこのままでも僕は幸福なのだけど、何故かそれではいけない、自立したほうがいいという心からのサインが徐々に首をもたげてきた。ひとしきり独りで悩んだ後僕は素直に御幸さんに内心を打ち明けてみた。

「あの、僕ここでいつまでも世話になっていていいのかなと思って・・・」

御幸さんは不思議そうに首を傾げて夕飯のシチューを頬張りながら

「別に私はいつまででもいてくれていいよ。君との生活は楽しいしね」

と明るく言ってくれた。その事自体はすごく嬉しかったのだけど、その分僕は自分が駄目な人間のような気がしてなんだか涙が出そうになってしまった。

「なんかこのままじゃ駄目な気がしてさ・・・・」

僕は無口な性格でいつもこんな感じの受け答えだったけど、特に御幸さんは気にした風な様子はない。

「そっか。そうだねー」

僕の内心の深刻さに反比例して御幸は呑気に頬に指をあてていた。

「じゃ、このあたりで静君も独立しちゃう?」

御幸さんは僕を静と呼ぶ。それは僕の本名ではないのだろうけど、二人で決めた僕の呼び名だった。

「え?独立?」

予想外の返答に一瞬意味がわからなかった。独立ってどういう意味だろうか?

「だからさ、静くんも結構ヒーリング使えるようになってきたじゃん。だからこのあたりで独り立ちしてみるつもりない?」

あっけらかんと彼女は言ってくれたけど、そんなことはとても出来そうにないと僕には思えた。僕なんてただ御幸さんの傍らでごく簡単な手伝いくらいしか出来ていないのに、たった独りで患者さんを癒やすなんて無理だと思った。

「大丈夫よ。簡単簡単。静くんなら出来るって!」

そんな御幸さんの言葉に後押しされる形で僕はヒーリング事務所なんて御大層な代物を掲げることになったのだった。最初はこんな事しでかして家賃の支払いとか大丈夫なのかとか、絶対客なんて来るわけないとかドキドキハラハラしてしまったけど、多分御幸さんが紹介してくれたのだろう、チラホラと知り合いのおばさんなどが客として来てくれて不思議と何とか支払いが回るくらいには事務所として運営は出来たのだった。僕にはその事よりもわざわざ自分を頼って人が来てくれているという事実そのものが何よりも嬉しいのだった。自分では大して感じる事は出来なかったけど僕の手からも多少は気のようなものが出ているということなのだろうか?少しだけ僕は自分に自信が持てた気がした。

自分自身に手を当てて気を流し体を癒やすのもいいが、他人に奉仕という行動そのものが僕の精神を救う。自分ではなく他者のための行為が僕の心をポカポカと暖かくさせて癒される。金銭的な報酬もそれはそれであってもいいものだけど、僕の場合それよりむしろこの精神的な副産物の方が余程報酬になっているなと実感する、そんな素晴らしい毎日を過ごすのだった。

記憶を取り戻すということについて

そんなある日のことだった。ふとした瞬間僕はいつの間にか自分が記憶を失っていることを今の楽しい毎日のおかげといっていいのかすっかり忘れてしまっていることに気がついたのだった。別に忘れたままでも構わないのではないかとも思う。だけどやっぱりそこには大切なものもあるはずで、ある程度徐々にでもいい、少しずつ怖いけどがんばって思い出してみようかと思った。でも出来たら楽しい思い出だけにして欲しい。僕の楽しかった記憶、子供の頃を思い出したい。自室の柔らかい椅子にゆったりと座りながらそう念じてみた。すると不思議な事にぼんやりとだけど一瞬子供の頃の自分がうさぎを抱きしめている光景が見えた気がした。何となくだけどその暖かさ柔らかも覚えている。やっぱり体は覚えているんだなと改めて実感した。僕の体には今までのあらゆる記憶が宿っている。それはとても重要なことなんだろうな。あまり認めたくはなかったけど思い出したくない記憶もあるのだろうけどでも楽しく日々を過ごしていた記憶もこの肉体にはまだまだ眠っているはずでそれを是非思い出したいと思う。もっと思い出せないだろうか、出来たらもう少し手軽に。僕はゆっくりと深呼吸してより深く椅子に腰掛けながらリラックスしてみた。吸うよりも吐く息の方を長くして深呼吸を繰り返すとだんだん思いだすのだった。目を閉じていると脳裏に記憶がイメージとなって蘇ってくる。その中には確かに思い出したくないものもあった。転んで怪我をしてしまった失敗体験、人に強く言われて辛かったであろう記憶、大嫌いな人を恨んだ経験、そんなものが多数蘇ってきてしまったけど、逆に動物に触れた時の優しい気持ちや美しい植物や星を眺めた時の感動、感動的な音楽に魂が震えた時の心底生きていてよかったと思えた時の事なども同時に思い出せた。そして思い出すことで僕の体も心も楽に暖かくなっていて、やはりこの事は今の僕に必要なことなんだなと改めて思うのだった。

散歩道 イチョウと水面の光と紅葉

バス停がイチョウ並木になっていた

目が覚める思いがする その鮮やかな黄色に

キラキラと陽を浴びて光るものに

どうしてこんなに惹かれるのだろうか

光とは不思議だ

橋の上から水面を眺めると

滝の辺りがキラキラと眩しい程光っている

思わず目を細め目を伸びる光を楽しんだ

水音が心地いい

心の波長をゆっくりと静かにしてくれる音だ

丸くて黄色い光る陽の形は

何だか温かい食べ物みたいに見えた

モミジの紅い色は温かくて風情がある

中世の短歌を思い出して詩を詠みたくなる色だ

少し足を伸ばしただけで新しい発見に次々出会う

自然が演出する四季の景色

こんな風景の中に僕は住みたい

日記 雨だから家で本を読む1日

こんばんわ、静悟です。今日は一日天気が悪く、家で本を読んでました。昨日届いたエンデのモモとホリスター・ランドさんの、知りたいけど、聞くのが怖かった「死後」に関する62のこと、という本の続きです。

 

まず朝目覚めて食料が無かったので買い物に行きました。そして、パンとヨーグルトとリンゴと卵焼きの朝食を摂りました。それから何度か散歩に外出した以外はひたすらモモを読んでいたので、後3分の一くらいでしょうか。意外に時間がかかりました。今日一日あったら読み終えられるかなーと昨日の段階では思っていたのですが。最近童話が面白いと思って、モモを読み始めたのですが、この作品で一番興味深いなと思える点はやっぱりモモという女の子のキャラクターです。モモは特別知恵に長けている訳でも、歌が上手い訳でも、魔法が使える訳でもない。ただ相手の話を聞くのが凄く上手かっただけ。モモ相手に話していると、自分でも気が付かなかった自分の中の物語に気づく事ができる。自分がこの世にたった一人しかいない、大切な存在何だと思えてくる。確かにこれって凄く素晴らしいことで、凄い才能なんだと思います。河合俊雄先生の本にも書かれていましたが、現代の聞き上手の人っていうとカウンセラーが思い浮かびますよね。僕はカウセリングには数回しか行ったことがないのでよくは知らないのですが、モモみたいな人がカウンセラーだったら行ってみたいかなって思います。なかなかモモ程の才能を持った人は珍しいかもしれませんが。聞き上手と言えば、昔どこかで河合隼雄がタクシーに乗ったら運転手が人生を語りだすっていう話を聞いた気がします。本当かどうかはわかりませんが、彼ほどの天才ならありそうな話ですよね。このモモを読んでいて、聞くのが上手いって、本当に素晴らしい才能なんだなあと思います。

 

ところでもう一つの方の本、死後に関する62のことの方の本はまだ最初らへんまでしか読めてない。でも本屋で見かけて、結構面白そうだったので、後でネットで注文したのですが、著者自身が霊能者なのかな?まず一番最初の基礎編では主に来世に関して書かれてました。来世では物理的制約が消える、来世では思考が現実化するとか。本当かどうかは勿論僕には分からないのですが、ここまで読んだ限りでは、来世って何だか楽しそうだなあと思っています。明日また続きを読みたい。

 

今日は雨だったから散歩もあまり出来なくて、もうちょっと外出したかったのですが、明日は遠方の方の図書館まで出来たら行きたいとは思っています。だけど明日も天気怪しいみたいなので、行けるかわかりません。という訳で今日はこんな感じの1日でした。

森の住人1話 童心に帰る

深い瞑想を終えて、僕はゆっくりと体を起こした。テントから出ると朝日がまぶしい。まだ早朝だから皆寝ているのだろう。キャンプ場の早朝を独り占め出来た気がして嬉しかった。
最近は体調が良い。体操を終えて顔を洗う頃にはもう完全に目が覚めていた。実にすっきりとして爽快な目覚めだ。
僕がここに来てからもう3日目になる。簡単なクライアントとのやり取り以外は特別やることもなく、のんびりとした森の中での生活を満喫していた。僕は自由なんだ。
テントに戻って持ってきた本をパラパラとめくっていると脳が調子を取り戻して行くのを感じる。それと共に空腹を覚えた。そろそろ朝ごはんを作ろう。
バックパックから卵とベーコンを取り出し、簡単なベーコンエッグを作る。焚き火にフライパンをかけていると、自分が自然の中にいることを実感することが出来て楽しい。焚き火は温度調整が難しく、最初は勘を取り戻すのに若干苦心したものの、今では慣れたものだった。

無事完成したベーコンエッグを皿に移し、次にパン生地を捏ねる。パンの手作りなんて、家ではやる気になれないが、このキャンプ場の雰囲気が一時的に僕をグルメにしてくれていた。何とか上手く出来た気がするパン生地を木の棒に巻きつけて、焦げないように気をつけながら、焚き火で焼く。昨日十年ぶりに木の枝で焚き火を起こした時にも、テントを一人で張った時も、そしてこうして焚き火でパンを焼いている今も、全てが子供の頃の追体験だ。僕は子供の頃何度もキャンプでこのような楽しい体験をした。その事が忘れられなくて、大人になってから突然日常から抜け出して自然の中で一人キャンプをしようという気になって、こんな山奥までやってきたのだった。昨日も寝袋にくるまって子供の頃を回想しながら一人眠りについたのだった。
「そろそろいいかな」
焼けたパンとミルクティーとベーコンエッグの朝食が完成した。一人で野外料理が無事完成できた事に満足だった。これなら、これから何度でもキャンプに来れる。自然の中で食べる食事は家の中で食べるのとは全然違う。空気が新鮮で清々しい。気候も涼しくなってきていていい感じだ。僕はこれからどんな所にキャンプに行こうかと頭の中で忙しく考えながら、食事にふけっていた。
「あの」
そんな時、突然誰かに後ろから声をかけられた。振り向くと20歳くらいの女性だった。知らない人だけど、何の用だろう?
「どうかしましたか?」
「あの、これあなたのですよね?」
見ると女性が手にしているのは僕の日記帳だった。昨日どこかに落とした気がして探していたんだ。暗かったので明るくなってから探そうと思っていたのだが。
「ありがとう。あなたが拾ってくれたんですか?」
「ええ、さっきトイレに行こうとしたら見つけて。管理所に行ったらここでテントを張っている人だって教えてくれたから」
「わざわざすみません。ありがとうございました」
それで話は終わりだと思った。だけど手帳を受け取った後も女性は何だかモジモジとその場で立っていた。
「あの、何か?」
「あの実は、私キャンプ初めてで何もわからないんです。一緒に来ようって言っていた子が急に来れなくなって、一人で来てみたはいいけど、テントの張り方もよく分からなくて、出来たら少しだけ教えてもらえないかなと思って、すみません」
随分無茶をする人だなと思ったが、特別やることがある訳でもない。
「いいですよ。それじゃまずテントから張りましょうか」
 こうして僕はこの不思議な女性にテントの張り方や焚き火の起こし方を簡単に説明した。その途中少し話した感じではキャンプは初めてだけど、アウトドアには一通り通じているらしいことが分かった。
「時々休みの日に一人で釣りをしていたりするんです。あなたはどうですか?」
「僕は釣りはほとんどやったことがなくて」

「そうですか。機会があったら一度どうです?無心になれて楽しいですよ」
「ええ。そういえばここにも川があるらしいですね」
「そうですね。山の方にあると聞きました」
女性が一人でキャンプに来ているのはやはり珍しい。僕等は隣同士のテントで過ごすことになったので、その後も何となく行動を共にすることが多くなった。テントを張り終わって、彼女は早速釣りに出かけた。後で共に昼ごはんを食べようと約束して。
僕はこの休日を満喫しようと、ごろりとレジャーシートの上で横になり、広がる青空に漂う雲をぼんやりと眺めていた。若干標高の高い位置にあるこのキャンプ場の広場だから雲が近い。白くふわふわとした雲に妙な迫力を感じながら、昼寝でもしようかと思っていたのだが、目が冴えて眠れなかった。仕方なく本でも読むかとリュックから小説を取り出して読んでいた。

日記と読書感想 自転車で図書館に行った日

ブログで初めて日記を書いてみました。読んでいただけると幸いです。

圖書館に行った

久しぶりに天気だったので、図書館に自転車でいってきました。15分くらい。いい運動でした。近所のこの図書館はそんなに蔵書があるわけでもなくて、既に粗方読み尽くしてしまった感があるのですが、まだ少しは通えそうかなと思っています。一番の目的は予約した著作を受け取ることにあったのですが。

結局天文学者が宇宙人を探しているという本とか、夏目漱石とか川端の雪国とかをさらっと読んで、来館して一時間位経つ頃急にお腹が空いてきて、仕方ないので、お昼ごはんを食べに帰りました。朝ごはんヨーグルトしか食べなかったから。

自転車屋さんで空気を入れてもらいました。ずっと入れてもらいたいと思っていながら、後回しになっていたので、快適に走れるようになって嬉しいです。

          

借りてきた本            

本日借りたのは、truth in fantasyシリーズの魔法・魔術の本と幻想図書辞典の本。この2つはシリーズが気になったので、予約してみたのですが、魔法・魔術の本の方は魔女に始まり、錬金術カバラについても書かれていて、まあまあかなという感じでした。辞典の方はちょっと読みづらくて、外れ感がありましたが・・・。

後、親に壊された心の治し方という本。正直この手の本は苦手で読むのを今ままで避けてきたのですが、いよいよ心の状態が良くないので、思い切って予約してみましたが、読んでみると非常に自分にも当てはまるところがいくつもあって、読んで良かったと思いました。この人のカウンセリング受けたいなーと一瞬思った程でした。育ちの傷という表現がとてもしっくりくる。そしておとなになっても幼少期のトラウマとかで苦しんでいる人が僕以外にもたくさんいるんだなと読んでいて、凄く興味深かったです。ついついこの人のもう一つの著作も予約してしまいました。僕に必要なのはトラウマを癒やすことで、物語創作もその一つだと思っているのですが、こういう虐待やPTSDを抱えた人の本をもっと読んでいったらいいのかなと思いました。最近雨で遠方の図書館に行けないのがストレスですが、何とかこの梅雨期間を乗り切り、自由に本のある所に出かけられるように早くなりたいと思う今日このごろです。

 

また図書館で借りた本ではないのですが、AMAZONで注文していた、ミヒャエル・エンデのモモが届きました。昨日本屋で買ったオズの魔法使いで児童文学を読みたくなったから注文しておいたのですが、やっぱり本が届くと無条件に嬉しくなります。河合先生の100分で名著を読んでいたので、大体の話は知っていたのですが、やっぱり読んでいて面白いと思う。まだ序盤までしか読んでいないのですが、明日には読破出来るように頑張りたいかなと思っております。エンデはシュタイナー教育を受けた人物だったんですよね。シュタイナー興味あるのですが、難解だから著作を読んでも充分に理解できなくて、モモのどの辺に彼の思想が反映されているのかもわからないのですが、でもエンデは他の作品も読みたいと思うくらい気に入っています。シュタイナー教育いいですよね。もっと日本にも普及したらいいのになあと思います。

 

最近の悩み  

さて今日の出来事としてはこんな感じだったのですが、今悩んでいるのはカウンセリングに行くか、それとも図書館に行って本を読んで、悩みの解答を探すかということです。しんどいから誰かに助けてもらいたいという部分もありますが、生来の性格であまり人と会ったり話したりするのが好きでなくて、それだけで疲れてしまう面もあるので。だから、どうしようかなーと思っているのですが、今の所図書館の方に心惹かれております。まあその時その時で判断すればいいかと思いました。

 

日記を書いてみた感想 

こうしてブログで初めて読書感想&日記を書いて見た訳ですが、今後も書けたら書いて行けたらなと思います。出来るだけ毎日の更新を心がけてゆきたい所なのですが、出来るかどうかはわかりません。今までアップした作品やこれからアップする小説や詩を少しでもいいなと思ってくれる人がいたなら、何か感想でもいただけたら嬉しいと思います。それでは今日はこの辺で。

僕らの旅路16 新たなる旅路

半年が経った。この間、僕と綾と愛衣先生の日常は大抵変わりなかった。僕はブログで詩を書いたり、図書館や公園で本を読んだり、綾と愛衣先生は勉強を教わったり、公園でバトミントンをしたりしていた。次第に綾の心は回復の兆しを見せていったように思う。思えば、一人で公園のブランコに乗ってた時なんて、生気を失った瞳をしていたのに、それが今は嘘のように、健康的な笑みを浮かべるようになっている。それも、この街と愛衣先生のおかげかなと思う。最近では寂しくて僕のベッドに潜り込んでくることも少なくなっていった。僕は綾の心は旅をする内に癒えていくだろうと思っていたが、これはこれで悪くない。

たまたまやってきたこの街だけど、思いの外居心地が良くて、地元からは車で一時間かそこらの距離しか離れていないけど、来てよかったと思う。だけど、愛衣先生の突然の報告によって、僕らの日常は急な変化を見せることになる。

「あの、私、来させていただくのは、今月が最後になるかもしれません」

いつものように3人で公園でバトミントンをして、帰ってきて、晩ごはんを食べていた最中のことだった。僕も綾も驚いて、愛衣先生を凝視してしまった。

「それはまた急ですね・・・。どうして?」

「先生、私達と一緒にいるのが嫌になったの?」

「そうではありません。実は、ある研究所から職員にならないかって誘われていて、それで・・・」

愛衣先生は心苦しそうだった。

「家庭教師はいつでも依頼がある訳ではありませんし、私元々教える方よりも自分で研究する方が好きなんです。だから、申し訳ありません」

僕としては愛衣先生が決めた道なら応援したいと思った。だけど綾はそう簡単に行かないようだった。

「私、もう少し先生と一緒にいたいよ。仲良くなれたと思ったのに、離れ離れになるなんていやだ」

「私も寂しいです。でも全く会えなくなる訳じゃないよ。きっとまたどこかで」

「だけど・・・」

「綾。愛衣先生には愛衣先生の進む道があるんだから仕方ないよ。二人で色んな所見て回ろうって言ってたじゃないか?僕ら二人になっても、僕らなら楽しくやれるよ」

「・・・空」

「愛衣先生も気にしないでください。僕も綾も愛衣先生から色んな事を教わったと思います。どうか、お元気で」

「はい。ありがとうございます」

最後には綾も納得してくれた。愛衣先生も笑顔だった。そして、一ヶ月後、綾は愛衣先生に長い手紙を書いて渡していた。別れる時は二人共涙を流していた。本当にいい縁だったと思う。

そして、愛衣先生と別れ、僕らは二人となった。

「なんかさ、丁度いい充電期間だったんじゃないかって気がするよ。綾も元気になってきたし、僕もいい気分転換になったし、これからが、本当の旅の始まりかなって」

「うん。そう言われるとそうかもね。ねえ、まずはどこに行くの?」

「どこがいい?」

「わかんないけど、北の方がいいな。色んな植物が見れるところがいい」

「じゃあ、森とかあるところがいいのかな」

「ねえ、空。前にも聞いたかもしれないけど、空はこれでいいの?」

「これでって?」

「私なんかに付き合ってってこと。私と旅をしてて、他に空にやりたいことはないのかなって思ってさ」

「綾と二人で旅をするのが今僕の一番やりたいことだよ。綾は違うのかい?」

「そう。私もね、空と旅をするのが今一番したいことだよ」

「よかった」

そして僕らは住み慣れたマンションを解約して荷物を車に詰め込んだ。二人の本もここに住んでいた間に結構増えていたから大変だったが。

「ねえ、私がもうちょっと大人だったらよかったのにね」

「どうして?」

「だって、その方が空といて不自然じゃないし」

「そっか。そうなると僕らはその時何に見えるのかな?」

「さあ?普通に二人で旅をする恋人とかじゃない?」

「ふうん。そっか」

今ひとつ想像が沸かなかったが。結局この街で暮らしていても、僕も綾も補導されることも職質されることもなかった。綾の両親は特に綾に対して何かをしたりしてないのだろう。物理的距離。とりあえず、実家から出来るだけ離れた方が良さそうだ。それが綾の心を軽くするなら、北の方に行くのがやはり一番良さそうだ。

「じゃ、行こっか?」と綾が言った。

「うん。それじゃ、乗って」

僕らは車に乗り込み、次なる旅先へと向かう。僕ら二人ならどこまででも行ける。そんな気がした。

 

黒猫物語2 図書館という選択肢

翌日僕は図書館にいた。星の王子さまの原文版と何冊か小説を借りた。そして昼間はずっと図書館のソファに座って読んでいた。12時頃お腹が空いたので近くの弁当屋で昼食を買って、中庭で食べていると、鳩が弁当を狙って足元をうろつき出した。さすがにここで餌を与えることがまずいことくらいは分かったので、可愛いなと思いながら観察するに留めていた。午前中ずっと読みっぱなしだったので目が多少痛む。手を瞼に当てて温めながら、しばらくベンチで休憩していた。

気がつくと眠っていたらしい。最近猫に会いにゆくせいで寝不足気味だったからだろう。固くなった体をストレッチでほぐしながら、もう少ししたら帰ろうかと再び図書館に籠もる。

大学を辞めてからすっかり学問の世界からは遠ざかってしまっていたが、向学心は寧ろ以前より増していた。多分大学の枠に嵌めるような教育から自由になったせいだろう。色んな本に手を出せるようになった。ということで、今は生物学の本を読んでいる。科学は苦手分野だけど、生物なら何とか読める。中でも動物や植物の知識は勉強していて楽しい。人間の体の構造に関する分野よりかは。そういえば、猫ってどんな体の構造してるんだろう?暗闇でも目が見えるとか、身軽だとか、聴覚が人間より優れているとか、そんな事くらいしか知らない。
そう思ったら、猫の本を探さずにはいられなかった。幸い猫の生態についての本が何冊か置いてあったのでそれを読むことにした。

「こんばんわ」
これで少女と猫の組み合わせと会うのは三回目になる。僕は買ってきたキャットフードを少女に渡した。
「ありがとう。この子も喜んでるよ」
何故か彼女は餌を家から持ってこない。家から食べ物を持ち込む余裕がないのだろうかと、何となく察した。
寒さを凌ぐためか、食べ終えて足元で丸くなる猫を撫でながら、彼女は僕に何か聞きたいことがあるように見えた。
「どうしたの?」
「あのさ、お兄さんって大学生なんでしょ?」
「元ね。今はもう違うけど」
「卒業したんだ?」
「いや、辞めたんだ。色々あってね」
「そうなんだ・・・」
そこで会話が一旦途切れた。
「どうしてそんなことを?」
「うん。私学校に行ってなくて、親との関係も良くないからさ。家庭教師がついてくれたらその辺少しはマシになるかと思って」
家庭教師か。なるほど、いいアイデアかもしれないな。でも大学を辞めて無職の僕を彼女の親御さんが雇うとは思えなかった。
「学校は嫌いなの?」
「うん。あそこに行ってもろくな事はないよ」
「そうだね。同感だ」
意外そうに少女は僕を見た。否定されると思っていたのだろうか。大抵の大人は学校に行ったほうが良いよというのかもしれないが、僕自身決して学校が好きではなかった。むしろ行かない選択をした少女を褒めたいくらいだった。
夜の公園は冷える。僕は紅茶を啜りながら体を温めていたがこれ以上は健康に良くないと、そろそろ帰ろうかと思って腰を浮かした。

「ねぇ、大学辞めたって、それじゃ今は何してるの?」
猫を撫でるのをやめ少女は僕を見た。
「ん?今は特になにも。毎日図書館に行ってるよ」
「図書館・・・」
何を思ったか彼女は考え込んでいた。僕は眠ったかのようにその場で動かない猫の頭を撫でて、「そろそろ帰るよ」と公園を後にした。


翌朝は早目に寝たせいか、早朝に起きることに成功した。せっかく早起きしたので、早朝のランニングに繰り出すことにした。ウエアを着て、鍵だけ持って外に出る。少し肌寒いが、走っていたら暖かくなるだろう。
一キロ程走ると川が見えてくる。この川沿いを走り橋を渡ってぐるっと一周するのがいつものコースだった。人も車も少ないこの時間帯のランニングは心身ともに快適にしてくれる。目に映る緑や川のせせらぎを聞きながらゆっくりと走り続けた。いつもの公園まで戻ってきた時には相当体力を消費していた。息が切れて少し苦しい。久しぶりで張り切りすぎたか。あの黒猫はいないだろうけど、ちょっと休んでいくかと園内を見ると驚いたことに少女がいつものベンチに座っていた。こんな朝早くからいるなんて、まさかあれから帰っていないなんてことはないよね?
「おはよう」
「ん?・・・ああお兄さんか」
僕は隣のベンチに座って少女を観察したが寝不足には見えない。
「こんな朝早くどうしたの?」
「別に。ちょっと家には居づらいからね」
「ふぅん。いつもそうなの?」
「まあね」
不登校で家に居づらい女の子。黒猫を通じての交流も多少はあることだし、他人事と放ってはおけなかった。
「あのさ、僕この後図書館に行くけど、君も来ない?」