静悟の文学的空間

小説、読書感想、宮座賢治などについてのブログ

インディゴチャイルド4 不思議な夢と旅の再開

家に帰って考える

結局あの後お腹いっぱいまで会場の料理を楽しんで、ちょっとしたピアノ演奏や、講演なども開催されていたらしいのだが、僕としては予想外の女性達との出会いで満足してしまったので、9時になる前にタクシーに乗って早々に帰ってきた。お風呂に入ってからふと見てみると、ダイニングテーブルの真ん中に鎮座するパワーストーンが目に入った。

「・・・本当に不思議な石だ。眺めているだけで吸い込まれそうな気がする。心が浄化されていくように静かになってゆくのを感じる。やっぱり何か特別な力のある石なんだろうか」

誰かに鑑定でもしてもらった方がいいのかな。僕にはアメジストに似ているということくらいしか分からない。

そして、ソファに身を沈めてゆっくりと深呼吸して、先程まで楽しんできた食事会での事を思い返してみた。やはり一番心に残っているのは、あの40代くらいの女性が言ったこと・・・。

(・・・旅か)

しかしながら一軒家に住まう事ができたのに、今旅に出る訳にも行かないだろう。いや、別に旅に出ても家を空けてまた帰ってきたらいいのか。あの女性もそういう意味で言ってくれたのかもしれない。

ガラリと窓を開けて庭を見る。花壇は変わりなく美しく咲いている。旅に出るとしたら、誰かに花壇の世話を依頼しないといけないな・・・。と思いながら例の猫がいないか庭に出て辺りを見回してが見当たらなかった。彼は昼間の暖かい庭が好きなのかもしれないな。夜空を見上げてみると、月が綺麗に見えた。そろそろ満月に近い。

(・・・浄化作用)

食事会での老紳士が言った事。月の浄化作用を幸いながら僕も感じる事が出来た。

「不思議だな、月って。」

2,3分そのまま月の光を見上げていた。そして家の中に戻り窓を閉める。それにしても色んな事があって楽しい夜だった。行ってよかったな。明日も良いことがあるといい。そう思いながら僕は安らかな眠りについた。

 

夢を見た。昔の夢だ。小学生くらいの僕は誰もいない家でひっそりと食事を摂っていた。大して具の入っていないカレーをレンジで温めて、シンと静まりかえった家の中で孤独に食べる。その後僕は自室に戻りグリム童話を読んでいた。その頃の僕はヘンゼルとグレーテルのお話が好きだった。両親に見捨てられた彼らがお菓子の家という楽園に辿り着く部分が気に入って何度も読んでいた。その後の魔女の話は怖いので読み飛ばしていたが。

(あまり思い出したくないことだな。何で今更こんな夢を)

意識はあった。これも明晰夢と呼べるのかな。どうも夢の内容をコントロールは出来ないみたいだけど。

そして僕はそのまま一人寂しくベッドに入り、眠ったはずだった。僕の記憶ではそうなっている。だけど夢の中の僕は窓の外の月を見上げていた。しばらく魅入られたように月の光を浴びていた。

(現在と過去がリンクしているな。不思議な現象だ)

一歩引いた所で自分を観察しているような感覚だった。それでいて夢の中の僕は僕の意志とは無関係に動いてゆく。物語の中の登場人物のように。

何を思ったのか、僕は本を閉じて外出するために玄関で靴を履いていた。

(こんな時間に外出するのか。この頃の僕はそんな行動力なかったはずだけど・・・)

まあこれは夢だ。観察することにしよう。

そして僕は公園へやってきて、小さい体でただ月を見上げていた。満月だった。そして公園は高い所にあったので空が近い。月の魔力を存分に吸収しようと僕は両手を月に翳した。すると、何だか寒さで冷えた体が少し温まってゆくように感じた。

(この不思議な現象は夢だからだろうか?今度こちらでも試してみようかな)

そして僕は驚いたことにコンビニに向かった。小さい頃一人でコンビニに行ったことなんてなかったのに、これは完全に今の意識が映し出している夢だな。

そして肉まんを買って公園に戻ってきて一人で食べていた。ベンチに座り静かに食べる。温かくて美味しかった。家で食べたカレーよりずっと。

すると茶色の斑猫がやってきた。

(この子は花壇で見たあの猫じゃないか!)

夢の中の出来事だと思いながらも、興味深い一致に惹かれ、夢の続きがとても気になった。猫は僕の足元に体を擦り付け「ニャア」と鳴いた。まるで毎日会っている友達のように。僕も手慣れたように肉まんを与えた。猫は美味しそうにもぐもぐとそれを食べる。僕らは月明かりの下、この静かな夜の公園で食事を楽しんでいた。

昨夜の夢と旅に向けて

気づいたら朝だった。時間は8時前。しばらく蒲団の中で今しがた見ていた夢の余韻に浸っていた。

(それにしても不思議な夢だった。最初は幼少期の夢なんて何で見てしまったのかと思っていたが)

童話を読み終えてから事実とは違う方向に話が行った。一番気になるのはあの猫・・・。

ふと気になってカーテンを開けて花壇を確認した。だけど猫はやはりまだ来てなかった。

(何だかただの夢にしては気になるな。あれは本当にただの夢だったのだろうか。何かを啓示している?)

大切な事のような気がしたので僕はパソコンを立ち上げて今見た夢を日記にして保存しておくことにした。またいつか必要になる時が来る気がした。

夢分析とか受けてみるのもいいかもしれないな。機会があったら専門家の意見も聞いてみるかな」

不登校になった時かかったカウンセリングで、一度夢分析を受けたことがある。その時は大した効果もなく数回で終わってしまったけど、こちらで信頼できる心理療法家を再び探してみるのも悪くない。まだまだ古傷から立ち直ったとは言えないのだから。

気を取り直し顔を洗って朝食を作る。目玉焼きと魚をフライパンで焼いてご飯と昨日の味噌汁の残りを温めて朝ごはんを食べた。

食べ終えてからもう一度花壇を眺めて、今日どうしようかなと考えてみた。今日というか今日を含めた今後の行き先について。

(・・・旅ねえ。どっか遠くにでも行こうかな)

ちらりと花壇に目を戻すとこの立派な花壇をどうするかがちょっと気になった。

(うん・・・。とりあえず、少しの間、軽い放浪の旅でもするつもりで。どこがいいか図書館で調べよう)

そういう事で、支度をして図書館に出かけることにした。お昼までには帰ってこれるだろう。