静悟の文学的空間

小説、読書感想、宮座賢治などについてのブログ

インディゴチャイルド6 麗先生の鑑定

紫苑鑑定所は家から30分程の距離にある街中の一角にあった。到着する前、タクシーに乗っている間も頭の中は鑑定師に相談したいことで一杯だった。20分の間に何を優先して視てもらうべきか考えたのだが、やっぱり僕は過去の前世の事より未来の事を知りたいと思う。

「ようこそ、いらっしゃいませ」

入ってみると、清潔で静かな音楽(多分モーツァルトだと思う)のかかった、お洒落な待合室だった。受付で名前を言うと、記入して欲しいとアンケート用紙を渡された。ゆったりとしたソファに腰掛けて周りを見渡してみると、パワーストーンや精神世界の本が置かれている。この時点で僕は早くも来てよかったという気分になっていた。ここは今の僕にとって必要な情報をくれるところだという予感がした。

「どうぞ、こちらへ」

受付嬢さんに案内されて鑑定師の部屋へ入るとお香の匂いがした。

そして中には40代くらいの美人の女性が待っていた。年齢を感じさせながらも若い時は相当の美人だったと思われる。

「こんにちわ、どうぞこちらへ」

高く澄んだ鈴のような声だった。対面の椅子に腰掛けて、僕等は向かい合った。

「はじめまして、麗です。ちょっとお待ちくださいね」

麗先生は精神を集中させるように目を閉じて瞑想のように何度か深呼吸を繰り返していた。そして先生は目を開け、鑑定が始まった。

「今日はどういったご相談でしょうか?」

僕はこれまでの簡単な経緯を説明した。そして今旅に出たいと思っていることも。

「僕はこれからどう生きていったらいいんでしょうか?」

そう聞くと再び麗先生は瞑想するように深呼吸を繰りかえした。

「うん。旅はいいと思うよ。合っていると思う」

「ええ、だけどそれはもうちょっと先でもいいかなと。何か仕事でもしたほうがいいんでしょうか?」

「うーん。でもあなたは凄く鋭敏でしょう?中々人の中で生きていくというのは難しいと思うな」

「やはりそうでしょうか?」

何となく自覚していたが、先生曰く僕の感受性は相当鋭敏らしく、人の良からぬ波動をキャッチしてしまうので、多数の人と会うような仕事をするのは難しいだろうということだった。

「時々チラシを配る仕事とかしていて、でも今の場所に引っ越そうと思っていた時は植物に関する仕事でも出来たらと思っていたんです」

「ふぅん」

麗先生はまた深呼吸を数回繰り返した。何となくあの黒猫に導かれた不思議な女性との会話は言わないことにした。

「あなた自然が好きなんだよね?」

「ええ」

「確かに植物も凄く合ってると思うけど、栽培したりっていうよりは、自然を見てその美しさを何かで表現するっていう方が合っていると思う。私にはそう視えるな」

「表現・・・」

「多分あなたは凄く稀な運命の下に生まれついていると思う。きっと何か作ってみたらいい物ができるはずだよ」

「成程」

そして鑑定は終わった。帰路につきながら思った。そうか、僕は作品を作る事が向いてるんだな。いつか何か芸術作品を作ったりするだろうか。だけど今の僕は旅をする方向に意識が向かっている。どこか美しい景色の見れる場所へ行きたい。

僕は自分を治癒する事を求めて今の地へやってきた。今の住処へ引っ越す時はあの不思議な女の人の言ったように西の森で植物に関する事をやろうと思っていけど、僕の意識は更に新天地へと向かっている。本当に僕はどこへ行こうとしているのか。今生きていて凄く色々な事が変化してゆく。まさに人生のターニングポイントにいる事を自覚する。

「大丈夫だ。僕は色んな人の支えが合ってここまで来た。きっとこれからもっともっと楽しくて素敵で新しい体験が待っているさ」

布団で寝転がりながらそう自分を勇気づけた。大丈夫だ、何も心配することはない。むしろこれからが楽しみだ。