静悟の文学的空間

小説、読書感想、宮座賢治などについてのブログ

気がつくと天界にいた

そこは僕らが作った楽園だった
僕と植物と天使と僅かな猫や他の動物たちによって構成されている楽園。

白いベッドで目が覚めた。その姿勢のまましばらく、ぼんやりとして、体と心が覚醒してくるのを待った。

この場所に来てからもう一ヶ月か。随分と色んなものを見て、色んな体験をした気がした気がするけれど。

過去の傷も徐々にこの遠い地において、晴れてきた気がするのだった。


多分、ここは人間たちが天界と呼ぶ場所なんだろう。ということは僕は人ではなくなって、霊体か何かになったのだろうか?白い手を見てみても、人の時と何ら変わらなく思える。

果実の実っている果樹園エリアまで赴いた。実に色んな種類の果実が実っていて、今日のところはまだ食べていない青紫色のブルーベリーのような実を食してみることにした。
「うん。美味しい」
まるで僕好みに温度調節したかのように、絶妙の食感だった。この実を一つ食べるだけで、一日のエネルギーが完璧に補填されるらしかった。この地に来てから僕の体調は病の気配など微塵もない。

家に戻って、ベッドに腰掛けて瞑想を行うことにした。そうしていると、色んな雑念が湧いてくる。地上にいた頃はひたすら知識を追い求めるような毎日だったけど、この天界にやってきてからは、本を読まなくても平気だった。地上にいた頃に粗方読み尽くしたからだろうか?知識を吸収する段階は過ぎ去ってしまったのかもしれない。今は肉体から幽体離脱する時のように魂を移動させる手法を会得する事に専念したほうがいいということなのかな。もしかしたら、ここは僕にとってそういう場所で、僕自身の願望が作り出した場所なのかもしれなかった。

チャクラをイメージして脊髄を駆け上り、オーラが全身を包むようなイメージを広げた。そうすると、すううっと魂だけが、抜け出る。そして、僕は自由に上昇していった。

この地には色んな場所がある。地上なんかより遥かに洗練された叡智を詰め込んだ図書館や、聖水の湧く泉、そして荘厳な寺院があった。だけど今の所人っ子一人見かけていない。興味があるけれど、おいそれと近づけない雰囲気で、遠くから様子を見守っていた。
森の方では時々樹々の上を走るリスや野うさぎ達をみかけている。やっぱりここは僕が作り出した空間なのかもしれないと再度認識を深めた。


地上にいた頃の記憶は若干ぼんやりとしているが、一応は残っている。生前、僕は研究者をしていたが、あまり認められずに貧乏だった。毎日毎日図書館へ赴いては知識を吸収しては、帰って寝るだけの毎日だった。だけど、過労が祟ったために30前に車に轢かれて死んだ。そこまでは覚えている。だけど、この空間は天国なのか?それなら、すぐにでも案内人が来て良さそうなものだが。


空気が澄んでいる。家の屋根に上り、高いところから遠くを見渡してみることにした。もしかしたら、僕以外に霊的な存在がいるかもしれないと思って。家からそれほど遠くない場所に池があった。直ぐ側に果樹園もある。そしてそれより遠くにひたすら森が広がっているのが見えた。とても広い森だ。今の僕は飛ぼうと思えば飛ぶ事もできる。だけど敢えて歩いて森まで行ってみることにした。天界の森は地上の森とどう違うのだろうか?

歩くこと約30分。森の入り口にたどり着いた。入り口には看板があった。

「ご自由にお入りください」

全く不思議なところだと改めて思った。

森には道があった。その道はどこまでも続いていくように見えた。僕は道なりに進む。静かだった。時折聴こえてくる美しい鳥の鳴き声を他にすれば、何も聞こない。地上だったら虫の鳴き声が聴こえてくるものだけれど。それにしてもこの体はやはり肉体ではないのだろうか?歩いていても疲れを感じることがない。ここに来て良かったと思えることの一つだった。

一時間程歩き、広い場所に出た。そこには椅子があった。テーブルがあった。焚き火の後があった。そしてテントがあった。明らかな人の気配。誰かがここで過ごしていた残滓。疲れを知らない体とは言え、さすがに何時間も森を歩くのも退屈なので、今夜はここで過ごすことにした。まず水を確保しようと、耳を澄ませて、水の在り処を探知する。かすかに北東の方に小さな水が流れる音が聴こえたので、そちらに行ってみることにした。